マイクのおいしい使い方

音響

結論

おいしくマイクロホンを使うため、先に結論から。

  • マイクロホンは遠すぎないようにしよう
  • マイクロホンの向きに気を付けよう
  • 風防を使おう

なぜこうするのか、次の項目から述べていきます。

自炊のはじまり

昨今、流行性感冒の拡散防止のためマイクロホンをおうちで使用することが増えてきました。もともと電話やラジカセなどに組み込まれて居るマイクロホンですが、組み込まれていない単体マイクロホンを使う機会は・・・カラオケとかスピーチなどがあると思います。
ここでは音楽用の録音で使用し、準備から自分で行うことを念頭に、おいしい使い方を模索します。

なぜ”おいしい”なのかというと、マイクロホンの使い方には正解がないからです。音が入っていれば、まずOKなのです。その先の、おいしい部分を味わいたいと思います。

よくある単一指向性マイクロホン

調理しやすい素材をつくる

音声や映像などはデータにしてしまえば後から編集できます。しかし、特に音に関しては次のような編集は困難です。

遠くで鳴っている音を近くに持ってくる

例えばライブ会場の後方から録った音とかを近くで鳴っているかのようにするとか。

ノイズに埋もれた音をクリアにする

カクテルパーティで特定の人の話し声だけ抽出するとか。
(そのままカクテルパーティ効果 – Wikipedia

残響を取り除く

ホールや聖堂の響きをなかったことにするとか

これらの「復元」処理はできないわけではありません。ノイズ・リバーブ除去を行うソフトウェアもいろいろ存在します。たとえばこれ。

Cinema5d : Quick Tip: Remove Audio Background Noise and Reverb Easily

しかし、できたとしても効果が限定的か、もしくは違和感のあるものに仕上がってしまいます。不思議なことに人間の耳と脳味噌はどれもやってのけますので、将来的に機械学習を用いれば自然な形で処理できるはずです。

逆に、音源を遠くに持っていく、ノイズを付け足す、残響を付け足すという処理は割と簡単にできます。

なぜ困難?

なぜ復元処理が困難なのかを簡単に解説します。

音の成分の何かが欠落するから

遠くの音は元の音から何かの成分が欠落してしまっています。

たとえば、高音成分が欠落すればこもった感じになります。

こもった音。再生音量注意

低音成分が欠ければ軽っぽくなります。

軽い音。耳を劈くよね。再生音量注意

これらの欠けた成分は、つまり無くなってしまった成分なのです。無くなったものをもとに戻すのは難しい。人間の脳はある程度これを補完、つまり元の音を経験的に想定して補うことができますが、コンピュータはこういったヒントのない情報を作り出すのが苦手です。

雑音と音声の区別がつかないから

雑音と音声はコンピュータには区別がつきません。しかもなぜか、録音したものを聞くと人間にも区別がつきづらくなります。

直接音と間接音の区別がつかないから

これも雑音と同様に、どこまでが音声でどこまでが響いた音なのか、コンピュータには区別がつきません。

以上のことを回避するためには、マイクロホンをなるべく音源に近づけて収録するのが最も手っ取り早いと考えられます。

素材はなるべく大きく、しかし

音声の大きさを揃えることは重要です。あとで使う時に困るからです。しかし、大きければ大きいほど良いというものではありません。

どんなものにも限界というものがあります。ここでいう限界は、音量の上限と下限です。つまり、録音できる音量には上限と下限があります。

音量の上限はどのように決まるのかというと、マイクロホンの振動板の時点で決まってしまいます。最近のマイクロホンでは130dbSPLを超える耐圧を持つものはよくあるので、音量の上限はプリアンプで決まるということになります。プリアンプの性能が低かったり、調整を誤るとマイクロホンの性能を十分に引き出せません。

マイクロホンはまずマイクプリアンプにつながれる。
プリアンプの主要パラメータは「Gain」である。

余談ですが、130dbSPLというのはよくある騒音目安の「ジェット機の離陸音」くらいのやかましさです。ここまで音量のすごい楽器はなかなかないと思います。

ぎゅいーん

次に音量の下限ですが、これはマイクロホンからマイク・プリアンプまでのシステム全体で決まります。マイクロホンにもマイク・プリアンプにも自己雑音(出力ノイズ、等価雑音・・・などという表記もあり)があるため、これより小さな音はノイズに埋もれてしまいます。

以上の音量の上限と下限のことをダイナミックレンジといいます。そして、そのダイナミックレンジの範囲内で最大の音量を確保するためには、音声信号に対するノイズ信号の比率を最小化する必要があります。この比率のことをSN比といいます。

ノイズに埋もれた音声の例。再生音量注意

最もおいしい使い方は、これらの上限と下限の間に収まるように、かつノイズを抑えるように録音することです。

素材の大きさを決めるには

収録の大きさを決めるのは意外と簡単です。自分の出せる最も大きな音を出した時に0dbとなるように、つまり機械が収録できる最大音量に達しないギリギリの大きさになるようにGainを調整すれば良いのです。

機器の最大音量に達している例。もう少し余裕があるが、音声によっては音が割れたりする可能性がある。
この場合はチャンネルのピークランプとメインのメータが振り切れている。

また、マイクロホンとの距離が変動することは音量が変化してしまうため、なるべく避けましょう。同じ距離を保つことは、後述するポップガードを使用し意識することで可能となります。

距離が変化すると音量だけでなく音質も変わってしまう。

雑味をおさえる

音声以外の音は全て雑音ですから、これを抑える必要があります。先にも述べたマイクロホンを近づけるのも一つの手ですが、指向性のあるマイクロホンではマイクが向いている方向に音源があることも重要なノイズ対策です。指向性のあるマイクロホンでは指向する方向以外の音は減衰します。逆に指向する方向以外の場所に音源があると、ノイズの方が多くなってしまう可能性すらあります。

ペンシル型 単一指向性マイクロホンの例。
側面にスリットが入っていて、カージオイドが描いてるので単一指向性である。
サイドアドレス型(サイドエントリーなどとも言う)単一指向性マイクロホンの例。
だいたいカージオイドが描いてる側が正面である。
マイクの角度を変えて録音した例。再生音量注意

上の例ではマイクに向かう角度を変えて喋っています。注目してもらいたいのは、「90度」になった時の音です。音声は確かに入っていますが、なにか部屋の中に響いたような音がしています。口から出ている直接音より、壁や天井に反射した間接音が大きくなっているためです。

これらを解決するためには、音源とマイクロホンの距離を近づけるとともに、マイクロホンの向きに気をつけましょう。

マイクの向かう方へ。マイクをこちらに向ける。

風に気を付ける

風の音を抑制する

最後に、部屋の中に吹き荒れる風に気をつけましょう。風の原因はいろいろありますが主に二つです。一つはエアコンや扇風機の風、もう一つはくちやハナから吹き出す風です。

これらの風は「ボボボボ」といったような聞こえる音から、メータをゆっくり動かし波形を見なければ分からないようなゆらぎのようなものまで、低音域の幅広い雑音の原因となります。

風切音の例。これでも喋っています。再生音量注意

この風の流れを防ぐには名前そのままに風防を使います。

同条件で風防を装着した例。なんとかしゃべっている声も聞こえる。再生音量注意

マイクロホンの風防にはいくつかの種類がありますが、代表的で手に入りやすいのはウインドスクリーンとポップガードの二種類です。

ウインドスクリーン
ポップガード

特にポップガードは、破裂音を発声した時の風の流れを防ぐこともできますが、副次的にマイクロホンと歌手の距離を一定に保たせることができます。

ポップガードの位置でマイクロホンと歌手の距離を一定に

マイクロホンと歌手の距離を一定にすることで、音量や音質を一定に録音することができます。先述の音量調整などでも意図せずマイクロホンに近づきすぎることで音量がオーバーしてしまうと言う事故も防ぐことができます。これらは事故防止とともに、編集時の調整を容易にさせます。

そのほかの雑音

そのほかの雑音として、スタンドを伝ってくる雑音があります。この音を拾わないようにするにはサスペンション(ショックマウントとか、サスペンションホルダなどとも言う)を使います。サスペンションとは、マイクロホン本体を空中に吊って浮かせたようにして、スタンドなどから隔離する効果があります。

サスペンションいろいろ。
左群は挟んだハサミ部分を浮かす。右群はマイクロホンそのものを浮かす。

サスペンションを使うことで、室内を歩いた時の足音や、屋外の車が走る時の振動などを拾わないようにできます。腕が当たって「ゴン!」などという音も軽減できるはずです。

まとめ

最初にも書きましたが、

  • マイクロホンは遠すぎないようにしよう
  • マイクロホンの向きに気を付けよう
  • 風防を使おう

とはいえ、どのように録ってもきれいに録音できればそれでいいと思います。

ボツになったGIF

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